銀座の書店でこの本に出会って以来、惜しむように、丁寧に一章ずつ読んでいる。新しい発想というよりむしろ今までにある知識の奥と裏を探りつつも、結果として現代に通用する知性に溢れる一冊。写真家、現代美術家としてニューヨークを拠点に活躍する杉本博司の初の評論集と帯にある。平易かつ明哲な文章。英語版はまだ出版されていないだろうが、いくつかの章は日本文化に造詣が深い外国人でなければ読みこなすのが大変かもしれない。著者は鴨長明、能楽、神社、古墳、和歌、といった日本に古くからある文化や歴史などを通じて著者自身の写真や現代の事象について考察する。それに加えてアメリカ、ヨーロッパ文化、考古学、科学史などの事例、知識をもって論理に普遍性を持たせてある。そこに通じるのは過去への興味を掘り下げた理解と、そこから導かれる現代的な見方であり、決して骨董道楽もしくは歴史マニアの過去への憧憬や安住ではない。
自分自身、日本の文化や古いものが好きで大学では和歌を勉強した。しかしその興味を現代にどのようにつなげるか、今の自分の写真にどう活かすかについて考えたことすらなかった。この本を読んでヒントを得た気がする。たとえば、両親の実家に近い伊勢神宮は古い歴史を誇る。子供の頃から何度も参拝し、その厳粛で神々しいたたずまいには親しみを覚えつつも常に圧倒されてきた。これまでに何度も写真に撮ってきたが、どうもその神々しさが表現できない。もしかしたら直接撮影するよりもまったく別の方法で自分の感覚を形にできるのかもしれない、そう思った。やり方はほかにもある。歴史は常に悠々と流れている。人知を超え、時代を上り下りながら。そこに飛び込むことも大事かもしれない。
現代に生きる我々が必要とするのはいまここで現実を理解して対処する力である。杉本博司は現代美術家としての透徹かつ明晰な視線を通じ、過去と現代を自由に行き来する。その視線に先には未来すら見えているにちがいない。だとすれば大変うらやましい。




